TaktOp(タクトオーパス)に登場するキャラクター「」について。
基本情報
楽曲 |
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「」 |
声優 |
河瀬 茉希(かわせ まき) |
フレーバーテキスト |
引っ込み思案で遠慮がちな少女。意思表示が苦手で、どもりやすく、自分の意見を言い切れないことも多い。幼さがまだ残るが、賢く聡明。その青い目で希望を、赤い目で困難を見るという。 |
元ネタ
2~3世紀に書かれた物語が題材
はフランスの作曲家モーリス・ラヴェル、ロシアの振付師ミハイル・フォーキン、ロシアの美術家レオ音・バクストらによって製作されたバレエである。2~3世紀に古代ギリシアで創作された物語「」を題材としている。1912年にパリで初演された後、1920年代にはパリ・オペラ座の演目に加えられた。
あらすじ
第1場
ある春の日の午後。牧草地近くの祭壇に若い牧人たちが供物を持って集まっていた。ヤギ飼いの少年ダフニス(15歳)は恋人クロエ(13歳)に横恋慕する牛飼いの少年ドルゴンと対立し、クロエの口づけをかけて勝負する。ダフニスは勝利しドルゴンは皆の笑いものとなった。その後、ダフニスが一人になると海賊が襲来し、クロエが誘拐されてしまう。ダフニスは祭壇で半獣神に祈った。
第2場
海賊の野営地では略奪に成功した海賊たちが宴を催しており、海賊の首領が捕虜クロエに踊りを強要していた。クロエは踊りつつも脱出の機を窺うが果たせず、首領に手籠めにされそうになる。そこに半獣神が現れ海賊を追い払う。
第3場
夜明けとなり、牧草地で再会を喜び合う。そこに現れた老いた羊飼いは「半獣神も恋愛経験があり、それゆえそなたらを助けたのだ」と教える。2人は神に感謝し、牧人たちも集まって全員で踊って終了。
ラヴェルの晩年
1912年にを作ったフランスの作曲家モーリス・ラヴェルはその後、「ラ・ヴァルス」(1920年)や「ボレロ」(1928年)などの作品を発表していくが、一度発表した作品にさほど愛着を示さず、周囲の人間が賛辞を送ってもそっけない素振りしか示さなかった。
晩年のラヴェルは原因不明の脳疾患を患い、意識は明晰であるにもかかわらず文章を書いたり楽譜を起こすことができなくなった。1937年12月に脳の外科手術を受けて死去したラヴェルだが、死の数か月前は好んで初期の作品を聴いていた。「」を聴いたとき彼はひどく感動し、友人に「あれはやっぱりいい曲だったよ」と言って静かに泣いていた。
イラストレーションノベル
昨夜の大規模な戦闘から打って変わって、今日は穏やかだ。なだらかな山の斜面に腰掛けて、風が短い草花をなでながら山肌を渡っていくのを見ている。 「いい風……」 乾いた風が、私の腰まで届く長いおさげ髪を揺らした。辺りに少しだけ咲いている、可憐なアルペンローゼやキンポウゲ、ワスレナグサなどの高山植物が一斉にお辞儀をしたように見えて、つい口元が緩んでしまう。こんな日はパンパイプを吹いて、羊たちを追いたいな。目を閉じると、平和だった頃の光景が瞼の裏に浮かんでくる。草を食む子羊の群れ。遠くから聞こえる羊飼いの笛の音。昼食を知らせるカウベルの音がして、開いた小屋の窓から焼けたパンとチーズの香ばしい匂いがしてくるの。 「ふふっ」 想像するだけでとっても楽しくて、思わず笑みがもれた。だけど、それは幻。息を吸い込んで鼻をつくのは、パンやチーズの匂いなんかじゃなくて、木々の焼け焦げた匂いや微かな硝煙の匂い。パンパイプだって、今は吹くことさえ出来ない。だって、その美しい音色がD2を呼び寄せてしまうもの。 眼下に小さな村が見えた。すでに人の住まなくなった、寂れた村。ここへ来る前に少しだけ寄ったけど、家々に飾られたクリスマスツリーや壁掛けのスワッグがそのままで、けれど見るからにひどく古びているのが痛々しかった。住んでいた人たちは、あの飾りとともに、クリスマスを祝えたのかな。またすぐ戻ってこられる——そう思って、飾りをそのままに村を去ったのかな。だとしたら、彼らがあの飾りに託したささやかな想いは、未だ果たされることなく、もう何十年も時が経ってしまったことになる。 知れず、右の目からポロリと涙が零れ落ちる。右の赤目は泣き虫だった。 私は少し歩いて、流れる小川を見つけると、川面に自分の顔を映す。私の右目はルビーのように赤く、反対に左目はアクアマリンのように澄んだ青をしていた。オッドアイ、というのだろうか。初対面の人には、たいてい「綺麗ね」だとか「変わってるね」と言われた。 右の赤目がまだ少し潤んでいた。この赤い瞳は、いつだって悲しい物語ばかりを見てしまう。私は無理に笑顔を作って、独りごちる。 「えへへ……こんなところを『ベルキス』さんに見られたらまた怒られてしまいますね」 『くるみ割り人形』さんに見られたらさぞ心配されるでしょうし、『アリア』さんに見られたら「私の方が泣きたい気分なのに……」だとか言って、私以上に泣き出しそうです。そんなことを考えると、少しだけ可笑しくなって、右手の甲で目のあたりを拭った。 ……私は大丈夫。 “悲劇”を映す赤い目とは違って、私の左の青い目は“希望”を映し出す。みんなは信じてくれないけど、私には“未来”が見えるときがある。見えるって言うほどハッキリしたモノじゃないけど、ぼんやり絵が浮かぶというか、直感とか閃きに近いもの。きっと、引っ込み思案な私のために、楽譜が与えてくれた不思議な力なんだと思う。 過去には、赤い瞳が、“悲劇”ばかりを見せることもあった。むしろそんなことばかりだった。そして現実はその通りになった。たとえば、D2との大きな戦争とか……いっそこの瞳を潰してしまえば——そう思ったことさえあった。だけど、今回は違う。 私の左の青い目が見た“希望”とは——指揮棒を携えた、まだ見ぬ誰かの影。 その影はやがて眩い光を放ち、この涙に濡れた世界を明るく照らす。そして、私たちを平和で、笑顔のあふれる世界へ導いてくれる。私は昨晩——朝と夜の狭間、戦闘疲れでまどろむ意識の中で、確かにその光を見た。きっとその人はじきに目覚める。そんな予感がした。 川面に映した青い目が、きらりと光った気がした。こぼした涙も乾かぬうちに、口元が緩んだ。 このこと、誰かに伝えた方が良いのかな?またヘンなこと言い始めたとか言われるかな?それでも、今回の予感は特別に思えるし…… うーん……うーん………… 「決めた! 行こう!」 だって、良い知らせなんだから、人に伝えたい!「またあいつがデタラメを言ってる」って、馬鹿にされたっていい! 私は、顔を上げて走り出す。長いスカートを翻し、三つ編みに結った二つのお下げを揺らしながら。枯れた短い草を踏み、露わになった岩肌を飛び越えて、斜面を駆け下りていく。だけど——その途中でぴたりと足を止めた。ふと、右頬が冷たいことに気づいたからだ。 「え……?」 右頬に触れると、その指が濡れていた。これは雨?そう思って空を見上げた。いつのまにか空は暗く、厚い雲に覆われていた。今にも雪や雹でも降りそうな空模様だけど、まだ降り出してはいなかった。 だけど頬は濡れていて——これは涙だと理解した。いつの間にか、赤い瞳がまた涙を流していた。 「この涙はなに……?」 赤い瞳は、私になにを伝えようとしてるの? 「っ……!」すると、一瞬のうちに暗い影が脳裏をよぎった。沢山の別れ、痛み、苦しみ、困難……そんなイメージが次々と浮かんでは消えた。 どうして?私の青い瞳は、“希望”を見せてくれたはず。だけど、それは同時に“悲劇”の始まりだとでも言うの?あの指揮棒を携えた、まだ見ぬ誰か。あなたはいったい誰なの? 空はさらに暗くなり、風も湿り気を帯びてきた。気温が下がったせいか、寒気がした。 「……ううん!」 だけど私は頭を振り、また斜面を駆け下り始めた。赤い右目をぎゅっと瞑った。青い左目でまっすぐ前を見た。 私に“未来”が見えようと見えまいと、本当のところはどうだってよかった。見たものが本当なのかどうなのか、どうだっていい。私はただ、来るかわからない“未来”に翻弄されたくなかった。自分で未来を切り開く、そんな強さがほしかった。私は走りながら待とう。強くなりながら待とう。まだ見ぬ誰かの指揮棒が、私の信じる未来を正しく指し示してくれることを。(原案:高羽 彩 小説:石原 宙 イラスト:tef)
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